【ニュルブルクリンク24時間レース (Race) / ドイツ・ニュルブルクリンク】

“ニュルウェザー”に翻弄された2024年大会の決勝、濃霧による長い中断から最後は時間短縮で終了してトップが僅か50周という記録に残る一戦となった!!

24h Nürburgring Race

開催日 2024年6月1日-6月2日
開催場所 ニュルブルクリンク
(ドイツ)
天候 雨 時々 曇り のち 濃霧
路面 ウェット&ドライ

“ニュルウェザー”という言葉がぴったりと当てはまる濃霧と冷たい雨で迎えた6月1日(土)に決勝の幕を開けた、第52回ニュルブルクリンク24時間の決勝レース。前夜は美しい夕陽がアイフェル地方の森を照らし、決勝日への好天を誰もが願ったものの、ニュルブルク城はあいにく霧の中にひっそりと姿を隠した。

12時40分から13時25分に開催されるウォームアップは、霧や雨も上がり、Team ADVAN×HRTのメルセデス-AMG GT3もスリックタイヤで出走した。相変わらず気温は11℃と低く推移、ノルドシュライフェのレコードラインこそ乾いているものの、数多くの箇所でウェットコンディションが顔をのぞかせるだけに本番の決勝レース前の最後の調整に集中した。

昨年は23万5千人もの観客数を誇ったニュルブルクリン24時間だが、今年もスターティンググリッドを目の前にグランドスタンドを見上げると、同等のファンが詰めかけているように見える。大勢の観客が詰めかけたことから、13時からはグランドスタンドの入場制限を行っていた程だ。

そんなグランドスタンドからの大声援を受けて、Team ADVANⅹHRTのメルセデス-AMG GT3と、フーバート・ハウプト選手/デニス・フェッツァー選手/ラルフ・アーロン選手/サルマン・オウェガ選手の4名のドライバーが誇らしくグリッドへついた。

このスタートグリッドについたドライバーの多くが、“鳥肌が立つほどに感動する”と口を揃えて言う。グランドスタンドの熱狂的な大歓声はもちろんの事、フォーメーションラップでコースサイドからのファンが送る盛大な歓迎に、世界唯一無二のこのノルドシュライフェにいる事が何よりも栄誉だという。

前日のトップ予選を経てスターティンググリッドは13番手。この時を待っていたかのように、16時のスタートとほぼ同時に大きな雨粒が路面を叩く。スタートドライバーを担ったハウプト選手は、リスクを冒さず、ウェットタイヤを選択した。

スタートから1時間を過ぎた頃にはすっかり雨も止み、少しずつ路面も乾き始め一気にペースアップを図る。厚い雲の間から時折太陽が顔をのぞかせるなど、20万人以上が集うこのニュルブルクリンクで気まぐれな“ニュルウェザー”がいたずらをする。そんな難しいコンディションの中でもTeam ADVAN×HRTのメルセデス-AMG GT3は5周をウェットタイヤで着実に周回を重ね、路面が乾き始めた事からカットスリックへと交換。ポジションは総合7番手までアップする幸先のよいスタートを切り、レース前半戦はSP9 プロ・アマクラスのトップをキープし続けていた。

『世界最大の草レース』と称されたのは、もはや遠い昔の事。FIA GT3マシンの誕生から“24時間耐久スプリントレース”と一部で称されるように、フルスロットルで挑む24時間。だが、この一周25,378mには魔物が棲むとまで言われ、クリアラップを取れる事はほぼ不可能なほどに、様々な困難が次々と姿を現す。

今年はメルセデス・ベンツのモータースポーツ活動130周年、そしてニュルブルクリンクのグランプリコースの開業40周年記念を迎える年で、双方ともにドイツ、そして世界のモータースポーツ史には欠かせない存在だ。

ところで、メルセデス-AMG GT3でこのニュルブルクリンク・ノルドシュライフェで最も速いコーナーは、260㎞/hというハイスピードで突入するシュヴェーデンクロイツである。その一方で、バックストレートのデッティンガーへーエでは271㎞/hのトップスピードを誇り、まさにハイスピードと73ものコーナー(左33、右40)を組み合わせたキャラクター豊かなこのサーキットは、1周のうちで平均106回ものギアチェンジを行うという。ドライバーだけでなく、自動車メーカーやタイヤメーカーにとってもこのニュルブルクリンクへ挑むにはハイパフォーマンスと信頼性が要求されるのだ。

順調かと思われたTeam ADVAN×HRTのメルセデス-AMG GT3だが、ナイトセッションに入ってからは、時折雨が路面を叩きつけたかと思えば、細かい霧雨へ変化するというウェットコンディションに翻弄される展開に。それまでSP9のプロ・アマクラスのトップを独走していたが、タイムロスで同クラスの2番手にポジションを落としてしまい、トップポジションを奪回すべく追い上げる。

濃霧のため23時22分に赤旗が提示され、レースは中断する事となった。この際にはパルクフェルメのルールは適用されず、タイヤ交換やリペア作業が許可されているとあり、全車がピットへ戻り、次のセッション開始までの時間を有効活用しマシンの整備にあたる。この時点でTeam ADVAN×HRTのメルセデス-AMG GT3は総合20位、SP9 プロ・アマクラス2番手に着けている。

翌朝7時、レースディレクターにより天候の判断結果が発表される予定で、最速で8時にレース再開とリリースが発表された。2020年は7.5時間、2021年には過去最長で14.5時間という豪雨や濃霧でのレース中断が記録されている。これも特徴的な“ニュルウェザー”で、今大会はスタートからことごとくこれに惑わされるレースとなっている。

ノルドシュライフェでは霧が晴れて走行可能な状態なのだが、グランプリコースは濃霧の上、強風が吹き荒れていた。9時30分から並べられたスターティンググリッドは凍える寒さで、スタートを待ち続けるものの一向に霧が晴れる気配はない。気温は昨日と同じ11℃と表示されているものの、風も強いことから体感は5℃ほどだろうか。キャンプ場や駐車場はぬかるみ泥まみれになりながらも、観客の大半は諦めて帰宅をする事なく、レース再開までの時間を楽しみながらリスタートの時を待ち焦がれた。その一方で、刻々とレース終了時間が迫り、いちはやくリスタートをしてクラストップ奪還を図りたいTeam ADVAN×HRTにはもどかしい時間だけがじりじりと流れた。

濃霧で視界不良が続き、ドクターヘリの飛行が不可能なため、オフィシャルからは7時から30分ごとにコンディション確認と告知が繰り返されていたものの、ただ待つのみしか出来なかった。一向に霧が晴れる気配がなかったのだが、12時45分に13時30分からフォーメーションラップを開始するとのレースオフィシャルからのアナウンスが入ると、スタートに向けてTeam ADVAN×HRTのピットも一斉に慌ただしく活気が戻った。昨夜から途絶え、待ち焦がれたエキゾーストノートにグランドスタンドの観客の歓声が響き渡る。

濃霧の中で150m先の視界も厳しい中だったが、昨夜の赤旗でレースが中断した際のポジション順でグリッドオン。その時点で降雨はなかったものの、濃霧に加えて昨夜の雨が乾き切っていない路面にスリックタイヤか、カットスリックタイヤかの判断が各チームで分かれる事となったが、リスタートのドライバーを務めたハウプト選手はスリックで出走を決めた。

セーフティカー先導の下、5周を走行し、天候の好転が叶わなければ、そのまま終了するという前提でレースは再開。最後の望みを掛けたが天候の回復は叶わずチェッカーフラッグとなり、総合18位、SP9 プロ・アマクラス4位入賞で第52回ニュルブルクリンク24時間を完走した。

Driver’s Voice

フーバート・ハウプト 選手 [Team ADVAN×HRT]

私の視点では、レース終了前の3時間はスタート出来たのではないか、と考えています。厳しいコンディションの箇所ではコード120(120km/h速度制限)等を実行すれば走行出来たのではないでしょうか。グランプリコースは濃霧でしたが、それ以外のコースの90%は問題なく走行出来ただけに本当にこのような結末が残念で仕方がありませんでした。最後にエキサイティングなレースをファンに披露出来ず、この現状に納得するしかありませんでした。

Engineer’s Voice

三好雅章 [横浜ゴム タイヤ製品開発本部 MST開発部 技術開発1グループ]

このレースウィークでは様々な出来事が起こりました。例年のレースを振り返っても、ニュルブルクリンク24時間は気温の幅が広いという事も想定内でしたので、10℃~40℃までの気温の中で十分にパフォーマンスが発揮出来るように、開発や準備を重ねて今大会へ挑みました。このレースで課題としていた一例ですが、ウェットコンディションのスタートを経験して、この日を迎えるまでに開発を重ねてきた結果として、自分達の現在の立ち位置がよく認識出来たと思います。非常に短いレース時間だったとはいえ、得るものは大きかったと思います。

Haupt Racing Teamとは初めてのニュルブルクリンク24時間参戦となりましたが、事前に参戦をしていたNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)や予選レースを共に経験する上で、しっかりと良いコミュニケーションとパートナーシップを築けていると思います。今大会で発見した互いの課題について持ち寄り、今後のNLSで改良に努めていきたいと思っています。残りのNLSシーズンも、パフォーマンスの向上を目指して引き続き頑張ります。

Text : 池ノ内みどり(Midori IKENOUCHI)

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